2017年2月11日土曜日

僕たちのピラルクー物語

2014年、2月。大きな不安と期待を胸に、僕はひとり、初めてのアマゾンへ飛んだ。

3度の乗り換え、乗る予定だった飛行機が飛ばず、治安が悪いとされるメキシコでの3日間の足止め、挙句の果てにはロッドケースをロストバゲッジ(奇跡的に返ってきたけど)。

一人での海外は初めてで、降ってかかる災難に心労しつつ、降り立ったのは治安が南米最悪と言われるベネズエラの首都、カラカス・・・。

カラカスのホテル、僕の部屋の窓。なんだこれ・・・汗

3カ月以上の旅となる今回。まずはベネズエラに入国したものの、先々の予定を考慮し、まずは隣国のガイアナへ陸路移動を開始した。

ベネズエラでブラジルビザを取り、夜行バスにて二夜を明かし、ブラジルを通過してガイアナへ入国(ベネズエラ-ガイアナ間の国境は遮断されている)。国境近辺から情報収集をはじめ、雇ったドライバーに騙されながらもなんとか川辺の小さな村に流れ着いたのだった。

長距離バス。「チーノ(中国人)の席はここだ」と、通路の床で寝かされることに・・・。
 
ベネズエラのバス停にて12時間待ち・・・出発前はビビりまくっていたけど、優しいひとにもたくさん出会えた。

ちなみに、ベネズエラに降り立ってからガイアナの川辺の村までたどり着くまでに、既に10日以上経過していた。その間、竿を振るタイミングはなく、水辺にすら立てていない。

ようやく釣りのスタート地点に立てたことを喜びつつ、次は釣りに付き合ってくれる協力者を探す。釣りに使えそうなボートを持っている村人たちと交渉を始めた。
 
ガイアナの苦き思い出その1、インチキドライバー。今思うとうさん臭さしかなかったが、当時の自分はアッサリ騙され、実際はローカルバスで片道1000円せずに行けるところを・・・。
 
右も左もわからなかった当時の僕は、漁師のおっさんにカモにされながらも、なんとか釣りに出ることができたのだった。

ガイアナの苦き思い出その2、協力者のおっさん。詳しくは語らないけど、ブラジル側からガイアナにアプローチを考えている釣り旅人は、この人物に注意してください(笑)

 草刈り機を改造したポンコツエンジンで川を遡っていく。川には3mほどのクロカイマンが泳ぎ、空にはオウムのつがいが飛んでいく。あぁ、夢にまで見たアマゾンだ。

出国から竿を振れるまでとんでもなく長い時間がかかったけど、川に繰り出してみるとこれが面白いように魚が釣れた。ブラックピラニア、カショーロ、ビックーダ、タライロン、シルバーアロワナ、ピーコックバス・・・ずっと頭の中を泳いでいた憧れの魚たちが次々と姿を見せてくれる。夢中になって釣りまくった。

 
 
 
タライロン、ブラックピラニア、シルバーアロワナ、ピーコックバス(キクラ・オセラリス)。ルアーでボコボコ釣れる!
 
小さな針で餌釣りすると、色んな小魚が釣れる!
 
 
クロカイマンはどこにでもいた。子供サイズは昼間にトップウォータープラグで釣り、夜は至近距離までボートで近づき、手掴みで捕獲する。3mクラスともロッド&リールで2時間ほど戦ったが、最後の最後にラインブレイク・・・ロープが必要だった。

ある日、アルミボートを漁師のおっさんと共に片に担ぎ、汗だくになりながら1時間ほどジャングルを藪漕ぎし、小さな湖にたどり着いた。
 
ここでの狙いは、出国前、ホントに1ミリも釣れるとは思っていなかったピラルクー。「そう簡単に出会えるモンじゃないだろう」と高を括っていた僕の目の前に、2メートルクラスの「龍」が次々に呼吸に上がってくる・・・。

ピラルク―への挑戦初日、まずは餌となるタライラーを小型のトップウォーターやスピナーで釣っていった。

とにかくピラルク―にこちらの気配を察知されないよう、息を殺しつつ、タライラーがヒットしたら水面を転がるぐらいの強引なやりとりで一気に船に抜き上げていく。
 
ある程度の数が集まったところで、30cm程のタライラーをクエ針に背掛けにして、湖に投げ込んだ。ウキは持ってこなかったため、コカコーラのペットボトルで代用した。

ピラルクーの大好物、タライラー。このサイズじゃちょっと餌にするには小さい。大型個体は釣り上げてすぐにキープ用のバケツに放り込んでいたため写真がなかった。このときは活かした状態でキープすることに躍起になっていたが、死に餌で問題ないことが後々判明する

20m先に浮かんでいる浮きがわりのコカコーラのペットボトルをじっと見つめ、静かにアタリを待つ・・・つもりだったが、仕掛けを投入した直後にペットボトルが左右に小刻みに踊り出した。

仕掛けを回収してみると、タライラーがガツガツ食いちぎられた状態で帰ってきた。タライラーを釣っていた際も何匹か釣れてきて、嫌な予感はしていたが、水中にはピラニア・ナッテリーが群れを成しているようだ・・・これは苦戦しそうだ。

宿敵、ピラニア・ナッテリー。苦労して集めた餌のタライラーが5分と持たずに消えていく・・・

キャストすると着水音でピラニアが寄ってくるため、船べりに仕掛けを下し、リールから糸を引き出しながら距離を取り、ピラルクーの反応を伺う。しかし、数分としないうちにどこからともなくピラニア達が沸いてきてタライラーが食いつくされていった。

ピラニアの少ないポイントを探して転々と探っていくが、岸近くの浅場だろうが、湖のど真ん中だろうが、どこもかしこもピラニア地獄。そこら中でピラルクーが呼吸に上がってきているというのに、これでは全く釣りにならない・・・。
 
バケツの中のタライラーが全てピラニアに食いつくされる度に、ルアーでのタライラー釣りを強いられる。いくら簡単に釣れるタライラーとは言え、釣ってはキープしていくと、どんどん反応が悪くなっていった。

夕方、苦労して数匹のタライラーを集めて、何度目かのチャレンジ。船の真後ろで、呼吸に上がってきた巨大なピラルク―に気を取られ、よそ見をした瞬間、前方で「ボン!!」という爆発音がした。振り返ると、ペットボトルが消えていた――。
 
 
 
戦いの最中、巨体が水面を爆発させた。自然と声が出る。絶叫しながら戦う。こんなことは初めてだった。

アワセを入れた瞬間にリールがロッドから吹っ飛んで外れるといったハプニングもあったが、漁師のおっさんとの息の合った連携プレーの末、ピラルクーの下あごを掴み、ロープを使って船にずり揚げることができた。また絶叫した。
 
恐らく、後にも先にも、ここまで感情を爆発させることはないんじゃないだろうか。

魚が好きで、今まで釣りを続けてきて、旅に出て、本当に心からよかったと思わせてくれた一匹。ピラルクーよ、ありがとう!
 
このピラルクーとの出会いによって、僕の闘志は一時、燃え尽きてしまった。ジャングルでの野営生活を終え、村に帰って体を休めていると日本からメッセージが届く(超僻地の村にも関わらず、なんとWi-Fiがあった)。

「自分もこれからガイアナへ向かいます。」・・・面識はなかったが、釣り仲間からよく話を聞いていた「五月女学さん」だった。聞くと、ピラルクーを求めて開拓の旅を計画しているとのことで、話がトントン拍子に進み、僕が滞在しているこの村までやってくることになった。
 
学さんの到着を待つ間に、再び体制を立て直し、5日間の野営生活へ繰り出した。巨大なワニを釣ろうと奮闘したり(失敗に終わった)、アロワナやタライラーをボコボコ釣りつつ、新たなピラルクーの生息地を調査していった。

川沿いの湖を転々とし、呼吸に上がってくるピラルクーを観察する。だいたいどの湖にもピラルクーは生息していたが、一か所、ずば抜けて大きなピラルクーが多数生息する湖を発見した。2mクラスが次々と呼吸に上がり、身体をくねらせ、横っ腹を見せつけて沈んでいく・・・圧倒される光景だった。
 
「アロワナポンド!」と漁師のおっさんが案内してくれた湖。周囲はぐるっと水生植物に覆われ、シルバーアロワナが群れを成して泳ぐ。中心部のオープンエリアでは巨大なピラルクーが次々と呼吸に上がってきていた。
 
この湖を軽くルアーで調査をしてみて、もう一つ分かったことがあった。なんとこの湖、ピラニアがいないのである。
 
ピラルクーが一番数多く、7、80cm~2mクラスまでの呼吸を多数目視することができた。
 
次いでアロワナが水生植物に依存しつつ広範囲に生息している。
 
ピラルクーを恐れてだろうか、水際の浅瀬にはタライラー達が集まって避難(?)していた。もうここしかない。学さんをこの湖に案内しようと心に決めたのだった。

村に戻り数日後、無事に学さんと合流。村に到着したその日のうちに、陸っぱりでピーコックバス、ビックーダ、ブラックピラニア、パイクシクリッドを釣った。

学さんと合流した翌日、「アロワナポンド」に向かう。前回来た時に気付いたのだが、どうやらピラルクーにはそれぞれのテリトリーがあるようで、同じ個体が同じスポットで呼吸に上がってきていた。湖全域でピラルクーの呼吸は観察できたが、中でも、明らかに2mを超えていると思われる個体を何度も目撃したポイントへ向かった。

この湖では、夕方になると決まって強風が吹く。その風下の、ホテイアオイ群生地手前の開けた領域が、巨大なピラルクーのテリトリーとなっていた。強風下で船を固定し、ステイしながらアタリを待つことを想定して、湖底に杭を2本打ち込んだ。

この時点で既に夕方であったため、明日からの戦いの場を作っただけで初日は終了。その日の夜に、ライトで浅場を照らし、タライラーを見つけては釣り、学さんが持ってきたスカリに投入しておいた。
 
強風で船が流されないように、こんな感じで船の前後を固定。もう一人の協力者のおっさん、名前は忘れてしまったけどいいやつだった。

学さんがプレゼントした剛竿でタライラーをぶち抜いていくおっさん。初日の夜だけで12匹確保したのだが・・・
 
翌朝、スカリが消えていた。犯人はワニ。スカリごと食ったのだろう、オレンジ色のフロートだけがちぎられて水面に浮かんでおり、悲壮感を演出してくれる・・・。苦労して集めた12匹のタライラーは消失し、再び餌集めからのスタートとなった。

昨夜の努力は水の泡となり、しかもまとまった数のタライラーを釣り切ってしまったため、なかなか餌が集まらない・・・。以降ずっと、餌不足に悩まされ続けることとなった。生き餌にこだわり、スカリをワニに食べられてからは、タライラーの鰓に糸を通してキープしていた。
 
しかし、この池はやはり凄かった。初日は昼間にタライラー数匹をなんとか釣り、夕方だけ出撃。まず一投目、ボートを固定して仕掛けを投入。強風にまかせて仕掛けをピラルクーの巣へと流していくと・・・静かにペットボトルが水中へ消えた。

食ってきた個体が小さかったのか、違和感を感じたのか、すぐに吐き出してしまったようでペットボトルが浮かび上がってきたが、仕掛けを投入してすぐの出来事である。初日はこれで終了となったが、予定ではこの後4日間は湖畔での野営生活を送ることになっている。まだ戦いは始まったばかりだ。

夕方、風に吹かれながら水面のペットボトルを見つめる。
 
・・・しかしながら、それ以降はかなりの苦戦を強いられることとなった。

まず、餌となるタライラーが本当に釣れない。朝から午後まで4人で必死になって釣って、良くて数匹集まるかどうかである。
 
夕方、いつものポイントでタライラーを流すと、かなりの高確率でピラルクーから反応があった。しかし、アワセを入れる前に吐き出してしまうことばかり。

そして、全くいないと踏んでいたピラニアナッテリーだったが、極少数生息しているようで、餌のタライラーに執着し、何度も襲ってきて釣りにならない日もあった。タライラーが釣れなかったため、アロワナを餌に使ったりもしたが、やはり反応は良くない。
 
餌のタライラーを求め、ジャングルへ消えていったおっさん。小さなピラルクー片手に帰ってきた・・・(笑)
 
毎日チャンスはあった。しかし、あと一歩及ばず、明日こそ、明日こそ、明日こそは・・・気が付くと最終日の夕まづめを迎えていた。
 
この日、捕れたタライラーはたったの1匹のみ。鰓に糸を通し繋いでおいたものの、釣りに出るときにはすでに死んでいた。他に餌はなく、選択肢はない。
 
死んだタライラーを背掛けにし、仕掛けを風に乗せ、流し込んでいくと・・・「ボン」と、ペットボトルが静かに消し込んだ。
 
「食った!!」
 
これがきっとラストチャンスだ。
 
タイミングを見測り、竿と糸がほぼ一直線になるほんの手前で、学さんが思いっきりアワセを叩き込む。竿はグニャンとのされたまま、動かない。
 
間髪入れずにもう一発アワセをいれると一気に竿が絞り込まれ、戦いが始まった・・・!
 
スピード感はない。「そんなに大きくねーよ」とおっさんがつぶやいた直後、100キロを優に越えるであろう巨大な「龍」が水面を割って出た。
 
僕が釣ったヤツとは比べものにならない巨体。おっさんと顔を見合わせる。
「HUGE!!」おっさんが訂正した。デカい、デカすぎる・・・!!
 
学さんが船から落ちないように背中をささえ、戦うこと数十分。その間にピラルクーは身体をくねらせて2、3度水面を爆発させ、全力の抵抗をみせたが、ついに船べりまで寄ってきた。
 
最後の力を振り絞り、一気にピラルクーの頭を水面まで浮かせる学さん。恐怖すら感じさせるような、巨大な顔が水中から現れた。
 
ランディングは、僕だ。グローブをはめ、両手でピラルクーの下顎を掴みにかかるが、その度に「ドッゴォォ!!!」と頭を振り、手が振り払われる。同時にバケツで水をぶっかけられたような強烈な水しぶきをくらい、視界が霞む。
 
何度目かのトライでようやく下顎をしっかりホールドし、おっさんが鰓にロープを通し・・・
 
縛った!
 
僕が叫び、学さんは静かにボートに倒れ込んだ。
 
 お互い、心身ともに限界を迎えていた最終日に来たラストチャンス。現れたのは、正真正銘の「怪物」だった。
 
「いつか」、が、「今」になった。この瞬間に立ち会えて、本当によかった!
 
 
心から旅に出てよかった、そう思わせてくれたのが、僕にとってはこの2匹のピラルクーだった。
 
この先どんな怪物を獲ろうとも、色んな意味で、このピラルクーを超えるヤツはいないんじゃないかな・・・と、ちょっと思う。
 
3年前の話だけど、自分にとって最も思い入れのある旅。改めて書いてみて、当時の光景と感動が鮮明に思い出されました。初めての南米3カ月旅、自分自身を肯定できたひと時だったな。
 
またこの湖で、怪物たちの呼吸を眺めながら、のんびりアロワナ釣りしたいね。笑
 

それぞれのピラルクー物語を完結させた僕たちはガイアナを発ち、ベネズエラへ向かった。
 
数日かけてたどり着いたベネズエラの川辺の田舎町で、親友の「古田敦士」と合流する。
 
パヤーラ(カショーロ)を釣りまくり、ピライーバの幻影を追う旅が始まるのと同時に、魔のマラリア感染へのカウントダウンも始まるのであった・・・。

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